医療統計学CS1

クロス表による検査精度評価と治療効果の統計的分析

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はじめに

医療統計学は、医学研究や臨床実践において重要な役割を果たしています。データを適切に分析し解釈することで、診断法の精度評価や治療効果の比較など、エビデンスに基づいた医療の実践が可能になります。

本サイトでは、医療統計学の中でも特に重要な以下の2つのテーマに焦点を当てます:

  1. クロス表を用いた診断検査の精度評価:感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率など
  2. 新旧治療法の効果比較:クロス表とカイ二乗検定を用いた治療効果の統計的分析

これらの分析は、オープンソースの統計ソフトウェア「JASP」を用いて行います。JASPは直感的なインターフェースを持ち、統計の初学者でも扱いやすいソフトウェアです。

このサイトの使い方 各セクションでは、理論的な説明に続いて実際のデータを用いた演習を行います。提供されたCSVファイルをダウンロードし、JASPで分析を進めながら学習してください。

クロス表の基本

クロス表(分割表・列状表)は、2つのカテゴリカル変数の関係を示す表です。医療統計学では、診断検査の結果と疾患の有無、あるいは治療法と治療結果などの関連を分析するために頻繁に用いられます。

2×2クロス表

最も基本的なクロス表は2×2クロス表で、それぞれの変数が2つの値を取る場合に使用されます。例えば、検査結果(陽性/陰性)と疾患の有無(あり/なし)のクロス表は以下のようになります:

疾患あり 疾患なし 合計
検査陽性 a (真陽性) b (偽陽性) a + b
検査陰性 c (偽陰性) d (真陰性) c + d
合計 a + c b + d N = a + b + c + d

この表から、以下のような重要な指標を計算することができます:

感度 (Sensitivity)
感度 = a / (a + c)

疾患がある人のうち、検査で陽性と判定される割合

特異度 (Specificity)
特異度 = d / (b + d)

疾患がない人のうち、検査で陰性と判定される割合

陽性的中率 (Positive Predictive Value, PPV)
陽性的中率 = a / (a + b)

検査で陽性と判定された人のうち、実際に疾患がある割合

陰性的中率 (Negative Predictive Value, NPV)
陰性的中率 = d / (c + d)

検査で陰性と判定された人のうち、実際に疾患がない割合

ポイント
  • 感度と特異度は検査法の特性を表し、疾患の有病率に影響されません
  • 陽性的中率と陰性的中率は臨床的有用性を表し、有病率の影響を受けます

検査の精度評価

診断検査の精度評価は、その検査がどれだけ正確に疾患の有無を判別できるかを測定するものです。JASPを使って実際のデータから検査の精度を評価してみましょう。

JASPでのクロス表の作成

  1. JASPを起動し、提供されたCSVファイル「jasp_exercise_en_kensa.csv」を開きます
  2. 「Frequencies」→「Contingency Tables」を選択します
  3. 「Rows」に「Test_Result」変数をドラッグします
  4. 「Columns」に「Disease」変数をドラッグします
  5. 「Statistics」タブで以下の項目にチェックを入れます:
    • χ² tests
    • Nominal
    • Ordinal
  6. 「Cells」タブで「Count」と「Row」「Column」にチェックを入れます

結果の解釈

JASPで分析を実行すると、以下のようなクロス表が得られます:

Disease: Yes Disease: No Total
Test_Result: Positive 180 90 270
Test_Result: Negative 20 710 730
Total 200 800 1000

この結果から、以下の指標を計算できます:

感度
感度 = 180 / 200 = 0.90 = 90%
特異度
特異度 = 710 / 800 = 0.8875 = 88.75%
陽性的中率
陽性的中率 = 180 / 270 = 0.667 = 66.7%
陰性的中率
陰性的中率 = 710 / 730 = 0.973 = 97.3%
結果の解釈

この検査は、感度が90%特異度が88.75%と比較的高い値を示しています。疾患がある患者を検出する能力は高いですが、完璧ではありません(10%の偽陰性)。

一方、陽性的中率は66.7%と中程度で、検査が陽性の場合、実際に疾患がある確率は約3分の2です。陰性的中率は97.3%と非常に高く、検査が陰性であれば疾患がない可能性が高いことを示しています。

治療効果の比較

新しい治療法と従来の治療法の効果を比較する際にも、クロス表とカイ二乗検定が有用です。ここでは、新旧治療法と治療効果(改善/非改善)の関連を分析します。

カイ二乗検定の基本

カイ二乗検定は、2つのカテゴリカル変数間に統計的に有意な関連があるかどうかを評価するための検定です。帰無仮説は「2つの変数間に関連がない」であり、p値が0.05未満の場合、帰無仮説を棄却して「関連がある」と結論づけます。

カイ二乗統計量
χ² = Σ (観測値 - 期待値)² / 期待値

JASPでの治療効果の比較

  1. JASPを起動し、提供されたCSVファイル「treatment_effect_jasp_template_tiryoukouka.csv」を開きます
  2. 「Frequencies」→「Contingency Tables」を選択します
  3. 「Rows」に「Treatment」変数をドラッグします
  4. 「Columns」に「Outcome」変数をドラッグします
  5. 「Statistics」タブで以下の項目にチェックを入れます:
    • χ² tests
    • Nominal
  6. 「Cells」タブで「Count」と「Row」「Column」にチェックを入れます

結果の解釈

JASPで分析を実行すると、以下のようなクロス表とカイ二乗検定の結果が得られます:

Outcome: Improved Outcome: Not Improved Total
Treatment: New 70 30 100
Treatment: Standard 50 50 100
Total 120 80 200

カイ二乗検定の結果:

  • χ² = 8.333
  • 自由度 = 1
  • p値 = 0.004
結果の解釈

新しい治療法では70%の患者が改善したのに対し、標準治療法では50%の患者しか改善していません。カイ二乗検定の結果は統計的に有意(p = 0.004 < 0.05)であり、治療法と治療効果の間に関連があることを示しています。つまり、新しい治療法は標準治療法よりも効果が高いと結論づけることができます。

相対リスク(RR)とオッズ比(OR)

治療効果を比較する際には、相対リスクとオッズ比という2つの指標も重要です。

相対リスク (Relative Risk, RR)
RR = (新治療法の改善率) / (標準治療法の改善率)

この例では:RR = 0.70 / 0.50 = 1.40

オッズ比 (Odds Ratio, OR)
OR = (新治療法の改善オッズ) / (標準治療法の改善オッズ)

オッズ = 発生率 / (1 - 発生率)

この例では:OR = (70/30) / (50/50) = 2.33 / 1 = 2.33

ポイント
  • 相対リスク (RR) が1より大きい場合、新治療法の方が効果が高いことを示します
  • オッズ比 (OR) が1より大きい場合も同様に、新治療法の方が効果が高いことを示します
  • 稀な事象の場合、RRとORは近似しますが、一般的にORの方が効果を大きく見積もる傾向があります

演習問題

演習1: 検査精度の評価

問題

以下の新しい血液検査の結果を分析し、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率を計算してください。

疾患あり 疾患なし 合計
検査陽性 90 20 110
検査陰性 10 180 190
合計 100 200 300

解答

感度
感度 = 90 / 100 = 0.90 = 90%
特異度
特異度 = 180 / 200 = 0.90 = 90%
陽性的中率
陽性的中率 = 90 / 110 = 0.818 = 81.8%
陰性的中率
陰性的中率 = 180 / 190 = 0.947 = 94.7%

この検査は感度と特異度がともに90%と優れており、臨床的にも陽性的中率と陰性的中率が高いため、信頼性の高い検査と言えます。

演習2: 有病率の影響

問題

感度90%、特異度90%の検査について、有病率が異なる3つの集団(有病率1%、10%、30%)での陽性的中率と陰性的中率を計算してください。

解答

仮に集団サイズを1000人とします。

有病率1%の場合(疾患あり10人、なし990人)
  • 真陽性 = 10 × 0.90 = 9人
  • 偽陽性 = 990 × 0.10 = 99人
  • 陽性的中率 = 9 / (9 + 99) = 0.083 = 8.3%
  • 陰性的中率 = 891 / (1 + 891) = 0.999 = 99.9%
有病率10%の場合(疾患あり100人、なし900人)
  • 真陽性 = 100 × 0.90 = 90人
  • 偽陽性 = 900 × 0.10 = 90人
  • 陽性的中率 = 90 / (90 + 90) = 0.500 = 50.0%
  • 陰性的中率 = 810 / (10 + 810) = 0.988 = 98.8%
有病率30%の場合(疾患あり300人、なし700人)
  • 真陽性 = 300 × 0.90 = 270人
  • 偽陽性 = 700 × 0.10 = 70人
  • 陽性的中率 = 270 / (270 + 70) = 0.794 = 79.4%
  • 陰性的中率 = 630 / (30 + 630) = 0.955 = 95.5%
結論

有病率が高くなるほど陽性的中率は上昇し、陰性的中率はわずかに低下します。特に有病率が低い状況(スクリーニング検査など)では、高い特異度を持つ検査でも陽性的中率が低くなる可能性があることに注意が必要です。

演習3: 治療効果の比較

問題

以下の2つの薬剤(薬剤A、薬剤B)の効果を比較するデータを分析してください。カイ二乗検定を行い、相対リスクとオッズ比を計算してください。

改善あり 改善なし 合計
薬剤A 40 60 100
薬剤B 60 40 100
合計 100 100 200

解答

カイ二乗検定

JASPを使用して計算すると:

  • χ² = 8.000
  • 自由度 = 1
  • p値 = 0.005

p値が0.05未満なので、薬剤の種類と改善の有無には統計的に有意な関連があります。

相対リスク (RR)
RR = (薬剤Bの改善率) / (薬剤Aの改善率) = 0.60 / 0.40 = 1.50

薬剤Bは薬剤Aと比較して、改善率が1.5倍高いことを示しています。

オッズ比 (OR)
OR = (60/40) / (40/60) = 1.5 / 0.67 = 2.25

薬剤Bの改善オッズは薬剤Aの2.25倍です。

結論

薬剤Bは薬剤Aよりも統計的に有意に効果が高いと言えます。相対リスクが1.50、オッズ比が2.25ということは、薬剤Bの方が明らかに効果的であることを示しています。

まとめ

本サイトでは、医療統計学の基本的なトピックである検査精度の評価と治療効果の比較について学びました。

重要ポイント
  1. 検査精度の評価には、感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率といった指標があります
  2. 有病率が変わると、陽性的中率と陰性的中率も変化します
  3. 治療効果の比較には、クロス表とカイ二乗検定を用いることができます
  4. 相対リスクとオッズ比は、治療効果の大きさを測る指標として有用です

これらの概念と分析手法は、エビデンスに基づいた医療の実践において非常に重要です。JASPを用いることで、これらの分析を簡単に行うことができます。

さらに学びを深めたい方は、以下の参考文献を参照してください:

  • 医療統計学入門 - クロス表とカイ二乗検定の基礎
  • 診断検査の精度評価 - 感度、特異度、そして予測値
  • 医学研究のための統計学 - JASPによる実践的アプローチ

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