令和の医療統計学

実用医療統計 学習ドリル
無断転載禁止(c)木村 朗

統計学が必要な理由

統計学によって可能になる3つの超便利なこと

  • 要約 - 大量のデータから本質を見抜く
  • 推定 - サンプルから母集団の特性を推し量る
  • 確率判定 - 偶然か必然かを科学的に判断する

医療分野で用いられる統計学のこと-医療統計学
 生き物である人間の健康にかかわる出来事、病気や健康の成り立ちと意味について数理の原理を用いて思慮するための一つの手段。勘だけに頼らない多角的な判断材料を提供してくれるもの。

現象の数値化

統計学ではまず、観察対象を数値化します。数値化することで客観的な分析が可能になります。

データの代表値

平均値、中央値、最頻値などの代表値を使って、データの全体像を簡潔に表現できます。

推定の奥深さ

観測データから未知の値を予測する推定は、統計学の重要な役割です。

誤差の発見に基づく方法

数の原理(確率分布)に基づく方法がある

目に見えていることが100%真実と限らないと思ったら、数理統計に足を踏み込んでいるのだ

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心拍数と勉強時間の関係を分析しよう

以下のデータは、医療統計学試験直前の心拍数データです。Groupの値が1は40時間以上勉強した群、0は勉強しなかった群を表しています。このデータから各群の心拍数の平均値を求め、どのような傾向があるか考察してください。

A B Group
1 60 66 1
2 62 60 1
3 68 60 1
4 60 62 1
5 70 66 1
6 77 70 0
7 66 60 0
8 58 58 0
9 72 66 0
10 76 70 0

1-1. Group 1(勉強した群)のAとBの心拍数の平均値をそれぞれ求めなさい。

1-2. Group 0(勉強しなかった群)のAとBの心拍数の平均値をそれぞれ求めなさい。

1-3. 勉強した群とそうでない群の間に、心拍数に関してどのような傾向の違いがあるか考察しなさい。

平均値の計算は、各グループのデータの合計を、データの個数で割ることで求められます。

Group 1と0でA列の心拍数に大きな違いがあるかに注目してみましょう。

1-1の解答: Group 1(勉強した群)

A列の平均値: (60 + 62 + 68 + 60 + 70) ÷ 5 = 320 ÷ 5 = 64

B列の平均値: (66 + 60 + 60 + 62 + 66) ÷ 5 = 314 ÷ 5 = 62.8

1-2の解答: Group 0(勉強しなかった群)

A列の平均値: (77 + 66 + 58 + 72 + 76) ÷ 5 = 349 ÷ 5 = 69.8

B列の平均値: (70 + 60 + 58 + 66 + 70) ÷ 5 = 324 ÷ 5 = 64.8

1-3の解答:

勉強しなかった群(Group 0)の方が、A列(心拍数)の平均値が高い傾向にあります(69.8 > 64)。これは試験直前の緊張度が高いことを示している可能性があります。勉強した群は相対的に心拍数が低く、準備ができていることで精神的な安定があるかもしれません。

また、両群ともB列の値はA列より低い傾向にあります。これは測定時の状況による違いかもしれません。

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統計学の3つの便利な機能を活用しよう

統計学の「要約」「推定」「確率判定」という3つの機能について、それぞれ医療現場での具体的な活用例を考えなさい。

「要約」は大量のデータから重要な特徴を抽出すること、「推定」はサンプルから全体の特性を予測すること、「確率判定」は観察された結果が偶然か必然かを判定することです。

例えば、病院での患者データ、臨床試験の結果、疫学調査などを考えてみましょう。

要約の活用例:

病院で1年間に収集した血圧データから、年齢層別・性別の平均値と標準偏差を計算し、どの患者層に高血圧傾向があるかを一目で把握できるようにする。これにより、効率的な予防医療の計画が可能になる。

推定の活用例:

ある新薬の臨床試験で100人の患者に投与した結果、85人に効果が見られた。この結果から、信頼区間を計算して、全患者集団での効果率は78%〜92%の範囲にあると推定できる。

確率判定の活用例:

従来の治療法と新しい治療法の効果を比較する臨床試験で、新しい治療法の方が良好な結果を示した。p値が0.01であれば、この差は偶然ではなく、統計的に有意であると判断でき、新たな治療ガイドラインの根拠となる。

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「誤差の発見」と「確率分布」の理解を深めよう

「誤差の発見に基づく方法」と「数の原理(確率分布)に基づく方法」について、それぞれの考え方を説明し、医療データ分析での具体的な適用例を挙げなさい。

「誤差の発見に基づく方法」は、理論値と実測値の差に着目し、その差が偶然によるものか、何らかの要因によるものかを判断します。

「確率分布に基づく方法」は、データが従う確率分布(正規分布など)を仮定し、その性質を利用して統計的な推論を行います。

誤差の発見に基づく方法:

患者の血糖値モニタリングにおいて、理論的な予測値と実際の測定値の差を分析する方法です。例えば、ある治療法を継続中の患者の血糖値が継続的に予測値よりも高い場合、単なる測定誤差ではなく、治療効果の低下や患者の生活習慣の変化など、何らかの要因があると考えられます。

適用例: 慢性疾患患者の経過観察において、測定値の時系列変化を追跡し、急激な変化や一貫したバイアスがないか確認する。

数の原理(確率分布)に基づく方法:

健康な人の血圧値は正規分布に従うと仮定し、その性質を利用して統計的な判断を行う方法です。例えば、ある集団の血圧値が正規分布から大きく外れている場合、その集団には何らかの健康問題や環境要因がある可能性が考えられます。

適用例: 新薬の副作用発生率が、偶然によるものか、薬剤の影響によるものかを判断するために、確率分布を利用した検定を行う。

両方の方法は補完的であり、データ分析において「目に見えていることが100%真実と限らない」という視点を持つことが重要です。観測されたデータの背後にある本当の傾向や原因を見抜くために、これらの統計的方法が不可欠なのです。