初学者のための実践チュートリアル:第1回~第7回
このチュートリアルでは、無料の統計解析ソフトウェア「JASP」を使って公衆衛生ビッグデータの分析を実践的に学びます。JASPは、直感的なグラフィカルインターフェースを持ち、プログラミングの知識がなくても高度な統計分析が行える優れたツールです。
このチュートリアルは、公衆衛生ビッグデータ分析シラバスの第1回から第7回までの内容をカバーしており、JASPの基本操作から始めて、記述統計、データ可視化、相関分析、回帰分析などを段階的に学んでいきます。
まずは、JASPをダウンロードしてインストールしましょう。Windows、Mac、Linuxのすべてのプラットフォームで利用可能です。
JASPの基本操作と公衆衛生データの読み込み
チュートリアルへ公衆衛生データのインポートと前処理
チュートリアルへJASPでのデータクリーニングと変数変換
チュートリアルへ基本的な統計量の算出とグラフ作成
チュートリアルへデータパターンの発見と仮説生成
チュートリアルへJASPの高度な機能と使い方
チュートリアルへ変数間の関連性と予測モデルの構築
チュートリアルへJASPを起動すると、以下のようなインターフェースが表示されます。左側にデータビュー、右側に分析結果が表示されるシンプルな2ペイン構造です。
JASPのインターフェースは以下の主要部分から構成されています:
JASPには様々なサンプルデータが含まれています。公衆衛生データの例として、以下の手順でサンプルデータを開きましょう。
自分のデータを使用する場合は、「File」→「Open」から、CSV、Excel、SPSSなど様々な形式のファイルをインポートできます。
統計分析を行う前に、各変数の種類(名義尺度、順序尺度、間隔/比率尺度)を正しく設定することが重要です。
変数の測定レベルを正しく設定しないと、適切な分析やグラフが選択できなくなる場合があります。
実際の公衆衛生データを使って分析練習をするために、以下のリソースからデータをダウンロードできます:
例として、WHOの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)データセットをダウンロードし、JASPにインポートする方法を試してみましょう。
JASPは多様なデータ形式をサポートしています。以下の手順で様々な形式のデータファイルをインポートできます。
CSVファイルをインポートする際、区切り文字や小数点の設定が正しいことを確認しましょう。日本語のデータでは文字コードの問題が発生することがあります。UTF-8でエンコードされたファイルを使用することをお勧めします。
実際の公衆衛生分析では、専門のデータベースからデータを取得することが多いです。以下のリソースから実践に役立つデータセットをダウンロードできます。
| データベース名 | 提供機関 | データの種類 | リンク |
|---|---|---|---|
| Global Health Observatory | WHO | 世界の健康指標、疾病負荷、保健システム | アクセス |
| CDC Data | CDC(米国) | 感染症、慢性疾患、行動リスク | アクセス |
| e-Stat 厚生労働省統計 | 厚生労働省(日本) | 国民健康・栄養調査、人口動態統計 | アクセス |
演習として、WHOのGlobal Health Observatoryから「Life expectancy and Healthy life expectancy」データセットをダウンロードし、JASPにインポートしてみましょう。
多くの公衆衛生データベースはSQLを使ってアクセスします。JASPは直接SQLクエリを実行できませんが、SQLの基本概念を理解しておくと、データの整理や前処理に役立ちます。
-- 基本的なSELECTクエリの例
SELECT 国名, 平均寿命, 健康寿命
FROM 寿命データ
WHERE 年 = 2019
ORDER BY 平均寿命 DESC
LIMIT 10;
このようなSQLコマンドで取得したデータをCSVとして保存し、JASPにインポートすることができます。
インポートしたデータの構造を確認し、分析の準備をしましょう。
分析を容易にするために、変数にラベルやメタデータを追加しましょう。
公衆衛生データは多くの専門用語や略語を含むことが多いため、適切なラベル付けは分析結果の解釈や報告を容易にします。
データ分析を始める前に、データセットの概要を把握しましょう。
これにより、各変数の欠損値の数や基本的な分布を確認できます。
分析対象を特定のサブグループに絞り込むためのフィルタリング方法を学びましょう。
論理演算子(AND, OR, NOT)を使って複雑なフィルター条件を作成できます。例:(age >= 20) AND (gender == "Female")
公衆衛生データでは欠損値が頻繁に発生します。JASPで欠損値を処理する方法を学びましょう。
欠損値の処理方法によって分析結果が大きく変わる可能性があります。欠損のメカニズムや割合を考慮して適切な方法を選びましょう。
分析のために変数を変換したり再コード化する方法を学びましょう。
JASPの計算列機能はR言語の構文を使用しています。より複雑な変換が必要な場合は、Rの知識があると役立ちます。
変数のスケールを調整するための正規化・標準化方法を学びましょう。
データの中心傾向や散布度を表す基本的な統計量を計算してみましょう。
「Split」欄にカテゴリ変数(例:性別、年齢層、地域など)を指定すると、グループ別の記述統計量を算出できます。公衆衛生データ分析では集団間の比較が重要です。
JASPで公衆衛生データを視覚化する方法を学びましょう。
作成したグラフをカスタマイズして、より情報豊かな可視化にしましょう。
公衆衛生データを可視化する際は、対象者(一般市民、政策立案者、専門家など)に合わせて、適切な複雑さと情報量を選びましょう。色覚多様性にも配慮した配色を心がけてください。
カテゴリカルデータの分布を把握するための度数分布表を作成しましょう。
2つのカテゴリ変数の関連を調べるためのクロス集計表を作成しましょう。
クロス集計表のセルに期待度数が5未満のものが多い場合、カイ二乗検定の結果は信頼性が低くなります。その場合はFisherの正確確率検定を使用しましょう。
複数の変数間の関係を一度に探索するための方法を学びましょう。
相関行列を視覚化すると、変数間の関連性のパターンが一目で分かります。公衆衛生データでは、健康指標間の関連や社会的要因との相関を把握するのに役立ちます。
データ内の自然なグループやパターンを発見する方法を学びましょう。
主成分分析は多数の変数を少数の主成分に要約する方法です。公衆衛生データでは、多数の健康指標から基本的な健康次元を抽出したり、環境要因の構造を理解するのに役立ちます。
JASPのバージョン0.16以降では、Machine Learningモジュールを追加することでK-meansクラスタリングが利用可能です。
データ内の異常値や影響の大きい観測値を特定し、適切に処理する方法を学びましょう。
箱ひげ図では、四分位範囲(IQR)の1.5倍を超える値が外れ値として表示されます。
JASPでは直接Mahalanobis距離を計算する機能はありませんが、計算列機能を使って実装できます。
外れ値の処理は慎重に行いましょう。単に削除するのではなく、それらが実際の現象を反映している可能性や、測定誤差の結果である可能性を検討してください。特に公衆衛生データでは、外れ値がハイリスク集団を示している可能性があります。
データからパターンを見つけ、検証可能な仮説を生成する方法を学びましょう。
探索的分析から仮説を生成する際は、データから見つけたパターンが偶然の結果である可能性も考慮しましょう。可能であれば、生成した仮説を新しいデータセットで検証することが重要です。
探索的分析の結果を整理し、体系的な仮説検証へと進む方法を学びましょう。
探索的分析から見つけたパターンを、検証可能な仮説として明確に定式化します:
JASPの標準機能以外の便利な機能を紹介します。
公衆衛生分析に役立つモジュール:
JASPの特徴の一つであるベイズ統計分析の基礎を学びましょう。
ベイズ統計は、事前確率と観測データを組み合わせて事後確率を計算する統計的アプローチです。公衆衛生分析では、少ないデータでも意思決定に役立つ情報を提供できる点が有用です。
ベイズファクター(BF10)は、代替仮説と帰無仮説のどちらがデータをよく説明するかを示す指標です。BF10 > 1は代替仮説を支持し、BF10 < 1は帰無仮説を支持します。一般的に、BF10 > 3で代替仮説への「中程度の証拠」、BF10 > 10で「強い証拠」と解釈します。
研究の再現性を高めるためのJASPの機能を活用しましょう。
分析結果を効果的に共有・報告するための機能を学びましょう。
JASPの出力はAPA(米国心理学会)スタイルに準拠しているため、学術論文やレポートに直接使用できます。公衆衛生分野の多くのジャーナルもAPAスタイルを採用しています。
公衆衛生ビッグデータを効率的に分析するためのテクニックを学びましょう。
非常に大きなデータセットでは、分析前に適切なサンプリングやフィルタリングを行うことで処理速度を改善できます:
ビッグデータの一部のみを分析する場合は、サンプルが全体を代表しているかを慎重に検討する必要があります。特に公衆衛生データでは、特定の集団が過小代表されることがないよう注意しましょう。
2つの連続変数間の関連性を測定する相関分析の方法を学びましょう。
データが正規分布に従わない場合や順序尺度の場合は、ノンパラメトリックな相関係数を使用します:
相関係数(r)の目安:
ただし、公衆衛生研究では、弱い相関でも集団レベルでは重要な意味を持つことがあります。特に予防医学の文脈では、小さな効果サイズでも集団全体への影響は大きい場合があります。
1つの独立変数から従属変数を予測する単回帰分析の方法を学びましょう。
複数の独立変数を使った回帰分析の方法を学びましょう。
公衆衛生データ分析では、理論的な根拠に基づいて変数を選択することが重要です。統計的な有意性だけでなく、公衆衛生的な意義も考慮しましょう。特に交絡因子の調整は慎重に行う必要があります。
回帰モデルの前提条件を確認し、モデルの適切性を評価する方法を学びましょう。
回帰の前提条件が満たされない場合は、データ変換(対数変換など)や頑健な回帰手法の使用を検討しましょう。公衆衛生データでは、分布の偏りやサンプリングバイアスが前提条件に影響することがあります。
公衆衛生研究における因果推論の限界と解釈について考えましょう。
横断的研究デザインでは、変数間の相関関係は示せても因果関係を証明することは困難です。公衆衛生データの解釈では、時間的順序、生物学的妥当性、用量反応関係などの要素も考慮して因果関係の可能性を評価しましょう。
このチュートリアルでは、JASPを使った公衆衛生ビッグデータ分析の基礎から応用までを学びました。第1回から第7回までのチュートリアルを通じて、以下のスキルを習得しました:
これらのスキルを実際の公衆衛生データに適用することで、健康課題の特定、リスク要因の分析、介入効果の評価など、様々な実践的な分析が可能になります。
さらに学習を深めるには、以下のリソースが役立ちます:
また、このチュートリアルで学んだ内容をもとに、公衆衛生シラバスの第8回以降の内容(疫学データ分析、時系列分析、機械学習など)に進むことをお勧めします。