研究課題/領域番号 21K02712
ーこのページは科学研究助成費の補助を受けた研究の成果として公表されています。ー
一般のみなさまへ
「見えないことで本当に困ってしまうことを少しずつ減らして行こう」
「失明者が対人距離を認識するための通電覚の信号化に関する研究」を通して見えてきたこと
電動車が近づいてきてもその音がわかりづらいことから 目が見えない人にとって、EVカーの普及は
わけのわからない不安を高める具体例となります。
私たちは そのような人に電気を皮膚の上から流して人や車の接近がわかるような装置を考え、試作品を作って試してきました。
残念ながら、まだ十分な効果が一部の人では発揮できない状況にあります。
装置の改善と、目の代わりに電気信号を利用する方法について人間のからだの仕組みを調べながら、すべての目が見えない人の役にたつものを作ろうとしています。
このページをご覧になっている人にお願いがあります。
どうか、町で白状をついている人をみかけたら、ほんの少し見守っていただきたいのです。
足を止める必要はありませんが、もし、その人が危険に会いそうな場面で 大きな声で あぶない止まって! と声を出していただけたら それで 怪我を防げるかもしれません。
このようなお願いをするのは、これまでの私たちの研究によって導かれた結果があるからです。緊張に伴って急に通電信号の モールス信号がわからなくなる場合があります。
この原因はわかっていませんでした。
そこで、汗が関係していると見積もって、汗を吸い取る電極を用いることでこの現象が変化することを確かめました。
ただ、この電極に は反応時間が遅延するという弱点があることが判明しました。
この弱点を克服すれば視覚や、聴覚に障害のある 子どもから成人、高齢者に至る人々の安全な行動を助けることができます。
このような通電信号を感じ取り判断 するという知覚と認識の性能を高める装置の改良によって実用性が飛躍的に増えるものとなるでしょう。
2021年から2023年にかけて行った実験の内容をお示しします。
1.研究開始当初の背景
2020年5月に実施された日本視覚障害者連盟による調査によると、失明者コミュニティの人々はコロナ禍で要求されたphysical
distanceへの対処困難を訴えていた。本研究は、通電覚の利活用に欠かせない生体インピーダンスの変化に起因すると見られるドライブ現象の抑制の可変条件を明らかにして、このシステムの実装性を高め、
失明者が実際にセンサーとその情報処理による情報によって視覚によらない視覚依存性情報の利用が可能となる情報の効果を失明者によって明らかな行動の表出で示すことを目指した。
2. 研究の目的
通電の際のドライブ現象の原因として、心理的負荷に応答した意識外の交感神経機能の亢進に起因する、ある特定部位での微量発汗による皮膚のインピーダンスの変化が関わっている可能性が考えられた。
これらの要因がドライブ現象の抑制効果を示す原因であることをあきらかにすること。
3. 研究の方法
被験者と対人とのPhysical Distance情報獲得の実験の様子 : 被験者の横でマスクをしているのは私(木村朗)です。
データの測定:6m×3mの室内にて、被験者の前に立位および椅子座位で制止する人を配置し、被験者の前額面、矢状面上に高解像度カメラとKinect sensorを設置する。
低周波通電対人距離認識システムを操作させ、対人距離2mを認識ら合図として手首を90度返す(背屈する)よう指示し、素早く対人距離を言葉で表すように指示し、
せかすことで心理的ストレスを加えた介入条件と、それがない対照条件での試行を行った。
図中の①赤外線センサーによる対人距離計測、②センサーの情報処理および低周波通電用信号生成、③信号化された通電覚の出力(モールス信号様合図の知覚化)
対人距離をランダムに設定の上、直線距離で誤差10㎝に移動を成功とし、この成功率に寄与する要因をセンサーの設置条件、高分子生体電気伝導性素材などの異なる通電刺激素材毎の生体インピーダンス、通電周波数を可変した際の通電知覚、試行開始時点から被験者が移動開始するまでの反応時間を測定した。
この時、3軸加速度・心拍RR 間隔測定装置を胸部に貼付し自律神経機能も測定した。一部の実験では簡易の波形を装着して脳波も測定した。
アウトカム・分析方法:主アウトカムは、両条件における成功率とした。副アウトカムは生体インピーダンス、認識した信号の内容、実施前後の感想を聞き取り記録した。
4. 研究成果
通電信号による人の近さの判断について80%以上成功した場合の被験者における平均インピーダンスは、先天性失明者と後天性失明者とで、最小感知電位出力にp<.05の有意差が認められた。
また吸湿性電極を用いた場合、センサーが反応してから被験者が信号を認識して人の接近・存在を認識するまでに時間の遅延が生じることが明らかになった。通電周波数の影響としては、正答率が高いほど主観的な通電周波数が低くなる傾向がみられた。
これは通電知覚をモールス信号用の打点間隔を認識するためには、インピーダンスの変動に伴って、その分電流の印加を増やさなくてはならなかったものと考えられる。
参加者全員が10Hz以上で自覚可能となった。このことは、通電信号による外部環境情報の判断を支援する装置を実現する上で考慮すべき条件のひとつであると考えられた。
このような知見を報告した国内外の研究は、現時点できわめて少ない。視覚代替性情報伝達手法の開発は、視覚障害者に限らず、聴覚障害のある者や、加齢に伴う視覚や聴覚の低下を伴うひとにおける安全な行動支援技術として位置づけられる。
通電信号の生体内の情報処理過程は、まだ解明されていない。今後それらの知見と介入によるアウトカムへの影響を評価していくことが望まれる。弱点の補足によって確実に実装性が高まるであろう。
この研究はさらに発展しています。今後ともご注目願います。(文責 木村 朗)
公開日 2024年4月30日
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